東京高等裁判所 昭和42年(行コ)17号 判決 1968年5月31日
東京都千代田区岩本町二丁目一一番三号
控訴人
豊田被服株式会社
右代表者代表取締役
豊田光雄
右訴訟代理人弁護士
藤本猛
被控訴人
神田税務署長
雪田正幸
右訴訟代理人弁護士
国吉良雄
同
指定代理人 山口三夫
同
泉水一
同
今田叶
右当事者間の更正決定取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人訴訟代理人は「原判決を取り消す。控訴人の自昭和三四年三月一日至昭和三五年二月二九日事業年度の法人税確定申告につき被控訴人が昭和三七年四月三〇日に神法二法特第三四六号をもってなした更正処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴人訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張および証拠の関係は、被控訴代理人が次のとおり陳述したほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決四枚目表四行目に「建坪」とあるのを「延坪」と訂正する。)。
(被控訴人訴訟代理人の陳述)
(一) 控訴人所有の東京都千代田区神田松枝町四〇番地六所在の店舗一棟建坪二三坪四合六勺および同所同番地所在の鉄骨モルタル二階建居宅一棟延坪三五坪八合(建物A)と右建物の敷地である東京千代田区神田松枝四〇番地宅地四五坪四合六勺(土地A)の借地権の各値上り益について被控訴人がなした更正処分は簿記上の仕訳をもってすれば次のように表わされる。
(借方) 建物A 二三九、一九六円
土地Aの借地権 一三、四二二、九一〇円
(貸方) 雑収入(評価益) 一三、六六二、一〇六円
(二) 控訴人が訴外早川義正との間の交換契約により早川に対し建物Aと土地Aの借地権を譲渡し、早川から同人所有の東京都千代田区神田松枝町三七番地宅地三七坪一合一勺(土地B)の底地を譲り受け、その間に差金の授受がなされなかった取引関係は簿記上次のように仕訳される。
(貸方) 土地Aの借地権 一三、九二二、九一〇円
建物A 一、四五四、八〇〇円
(借方) 土地Bの底地 一、四六六、〇七五円
雑損失(譲渡損) 一三、九一一、六三五円
(三) 当該事業年度の所得を認定するには、その年度の益金の額から損金の額を控除すべきところ、被控訴人は控訴人につき生じた前記(二)記載の雑損失を控除しない違法がある。
理由
当裁判所は控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、
(1) 原判決一一枚目九行目に「千代田区松枝町」とあるのを「千代田区神田松枝町」と訂正し、
(2) 同一三枚目裏一一行目に「元来」とある部分から一四枚目表五行目ないし六行目に「解せられる。」とある部分までを「法人税法(昭和四〇年法律第三四号による改正前)第九条第一項は「内国法人の各事業年度の所得は、各事業年度の総益金から総損金を控除した金額による。」と規定しており、右総益金、総損金中には資産の譲渡に伴う損益が含まれる。ところで、資産の譲渡益に対する課税は、法人の資産が売買交換贈与等により所有者たる法人の支配を離脱する際に、資産の値上りという形ですでに発生している資産利益(キャピタル・ゲイン)を清算、課税することを本質とするものであるから、いやしくも資産が第三に譲渡された場合には、たとえ右譲渡が無償または時価よりも低廉な価額でなされたときでも、当該資産の取得価額(帳簿価額)と時価との差額たる資産利益に相当する益金が顕現するものとしなければならない。もっとも法人がその資産を著しく低廉な価額で譲渡した場合において、当該譲渡価額と時価との差額を相手方に贈与したものと認められるときは、右差額を法人税法第九条第三項所定の寄附金として取り扱い同条項および法人税法施行規則第七条第一項所定の限度において損金として処理すべきものと解するのが相当であり(後記法人税基本通達七七号にもとづく税務官庁の取扱もそうであることは本件弁論の全趣旨により明らかである。)、資産が交換により譲渡された場合もその理を異にするものではないと解せられるが、単に資産を低廉な価額で譲渡したというだけで、当該譲渡価額と時価との差額(交換の場合は、譲渡資産の価額と取得資産の価額との差額)全部を損金として計上することはこれを是認すべき法律上の根拠を欠くものといわざるをえない。」と改め、
(3) 原判決一五枚目裏六行目ないし七行目に「当たるものということができる」とある次に、「(法人がその資産を著しく低い価額で譲渡した場合に当たるかどうかは、交換については、譲渡資産の価額と取得資産の価額とを対比し社会理念に照らして両者が著しく懸隔しているかどうかによって決するほかなく、後者が前者の二分の一をはるかに下廻っている本件のごときは右の場合に該当するものというべきである。)。」を加え、
(4) なお、「当審における控訴人の主張は、建物Aと土地Aの借地権の価額と土地Bの底地の価額との差額一、三九一万一、六三五円が控訴人の経済的損失に当るという一事によりこれを税法上の意義における譲渡損と理解すべきであるとの前提に立脚するものであるところ、右前提自体失当であることはすでに説示したとおりであるから、右主張は採用できない。」と附加するほかは、
原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。してみれば、原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。
よって、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡部行男 裁判官 坂井芳雄 裁判官 蕪山巌)